〈とりびあ〉院外心停止例へのCPRは何分続けるべきか?
2016年03月15日更新
救急隊員や医師にとって,心肺蘇生(CPR)をいつ中止すべきかの判断は極めて難しいものだ。
CPRは何分間継続すれば最善の生存率と神経学的転帰につながるのか―。
これを明らかにするために,金沢大学病院救急部長で病院臨床教授の後藤由和氏らが実施した
住民ベースの観察研究の結果が欧州心臓病学会(ESC Congress 2015;8月29日〜9月2日,ロンドン)
で報告された。結果概要と同氏のコメントを紹介する。
〔53分を境に1カ月後の生存率は0%に〕
対象は,2011~12年に救急隊員によるCPRを受け,病院到着前に自発循環が再開した18歳以上の
成人1万7,238例。消防庁のウツタイン様式住民ベース研究に登録された患者データを用いた。
救急隊員による院外でのCPRの継続時間(救急隊員によるCPR開始から自己心拍の再開までの時間)
と1カ月後の生存率および神経学的転帰〔脳機能レベル(CPC)1または2で”良好”と規定〕との関連
について検討した。
その結果,心停止から1カ月後の生存率は36.8%,神経学的転帰が良好な生存者の割合は21.8%だった。
しかし,CPRの継続時間が長くなるほど1カ月後の生存率および神経学的予後良好な生存者の割合は低下し,
20分ではそれぞれ4.6%,1.9%,30分では0.8%,0.4%となり,53分でいずれも0%となった。
〔全生存者の99%超で35分以内に自発循環が再開〕
また,全生存者の99.1%,神経学的転帰が良好な患者の99.2%はCPR開始から35分以内に
自己心拍の再開がみられた(図)。
後藤氏は「1カ月後に生存していた患者や神経学的転帰が良好な患者の99%以上は受けたCPRの
継続時間が35分以内で,それより長く継続しても得られる利益は極めて小さいことが示された」と説明。
また,今回の結果について「救急隊員や医師には,CPRを35分以上行えば患者のために手を尽くしたと
自信を持って判断するための一助としてほしい」と述べた。
〔「35分」を1つの目安に治療方針を〕
後藤由和氏コメント
発表後には座長や会場の参加者から「体外循環を用いた蘇生方法の場合の最適な継続時間は?」
「この結果を実際の現場でどのように活用するのか?」など複数の質問を受け,関心の高さがうかがわれた。
なお,前者の質問に対しては体外循環使用者の数を含めた詳細データがないため不明であると説明した。
後者に対しては,各国で救急医療システムに違いがあるため,この結果を日本以外の国に当てはめることは
難しいこと,また35分継続しても,より高度な治療を行いさらなる蘇生努力をする場合もありうるため,
時間だけの要素で判断することは困難であることを伝えた。
わが国においては,この結果を踏まえ,「35分」を1つの目安として院外心停止に対する治療方針を
立てていただきたい。ただし,これは蘇生を全例で中止すべき時間ではなく,体外循環併用の蘇生や
冠動脈形成術への移行を早めに判断するための時間の目安として考えている。