〈とりびあ〉愛知県半田市/終末期医療に関する事前指示書
2016年07月22日更新
延命治療を希望しない全患者に心肺蘇生施行
DNARを表明しているがん終末期患者の救急搬送の実態
半田市立半田病院(愛知県)麻酔科の杉浦真沙代氏は、心肺蘇生処置不要(do not attempt resuscitation;DNAR)を表明しているがん終末期患者の自院における救急搬送の実態を第21回日本緩和医療学会学術大会(6月17〜18日、大会長=京都府立医科大学疼痛・緩和医療学講座教授・細川豊史氏)で報告した。同氏は、事前にDNARの意思表示があった全例に心肺蘇生が施されていたことを明かした上で、”心肺停止後の救急搬送依頼は延命治療の優先を意味する”ことを患者や家族に理解してもらう重要性を指摘した。
在宅医と連絡が取れないために救急要請されたケースも
半田病院は救命救急センター(ER)を有する一般病床499床の急性期病院で、地域がん診療連携拠点病院に指定されている。ER受診者数は年間約2万5,000人、救急搬送受け入れ件数は約6,700件に及ぶ。
杉浦氏によると、事前にDNARの意思表示をしているにもかかわらず、心肺停止後に救急搬送されてくるがん終末期患者が少なくないという。そこで、こうした患者の救急搬送の実態について、診療録を基に後方視的に検討した。
対象は2012年4月1日〜15年11月30日に同院ERに搬送された心肺停止患者のうち、がん終末期と診断されていた59例(平均年齢77.1歳)であった。
DNARの意思表示をしていたのは59例中30例(在宅患者25例、施設入所患者5例)で、救急隊にその旨が伝達されたのは11例であった。
そのうち、胸膜がんを患っていた80歳代の女性は自宅で心肺停止となり、家族によって救急要請が行われた。救急隊にDNARが伝えられたが、蘇生処置が施され、蘇生に成功。集中治療室(ICU)入院29日後に死亡退院となった。
大腸がんの70歳代男性は入所施設で心肺停止となった。施設で看取る予定だったが在宅医と連絡が取れず、「死亡診断書を発行できない」という理由で救急搬送を要請。施設側は救急隊にDNARを伝えたが、心肺蘇生下に搬送がなされた。同症例は結果的には蘇生不能であった。
“救急要請=心肺蘇生希望”という共通認識が必要
以上の結果を踏まえて杉浦氏は、がん終末期患者がDNARの意思決定をしているにもかかわらず、家族や施設職員が救急搬送を依頼することを問題点として挙げた。
DNARを表明している患者に対し、医療者はその意思を尊重し、自然な看取りを実現する努力を行う必要がある。しかし、現状の消防法やメディカルコントロール協議会は、救急要請がなされた患者を心肺蘇生の適応としている。つまり、救急隊は救急要請を受けた以上は、心肺蘇生を行わざるをえない。24時間体制での在宅医療支援なども望まれるが、「まず取り組むべき課題は、”心肺停止時に救急搬送依頼を行うことは、延命治療を優先することである”ことを、患者、家族、医療者の共通認識にすること」と同氏は強調した。
一方、家族らがDNARの重要性を理解していないために救急要請がなされる場合も多い。医療者はDNARの意味を患者本人、家族らの双方に十分理解してもらえるよう、患者が意思表示できる時期に話し合いの場を設けるなど、配慮する必要があるという。
また、患者が終末期に希望する治療、希望しない治療を明確に示しておくことも重要である。これに関して半田市は事前指示書の様式を作成し、ホームページ上で公開している。「こうした事前指示書をいかに普及させ、活用してもらうかが今後の課題」と同氏は述べた。