〈とりびあ〉【臨死体験の科学】肉体的死後も3分間は意識が続いていることが判明!
2016年06月14日更新
昨今、街中のいたるところで目にするようになった備え付けの医療機器「AED(自動体外式除細動器、Automated External Defibrillator)」は、心停止状態の人に電気ショックを与えて救命する機器である。日本国内での設置台数は、約40万台と急速に普及してきた事実の裏を返して言えば、公共の場での心停止は決してドラマや映画の中だけのことではなく、十分、身近な範囲で遭遇し得るものであるということだ。2009年の東京マラソンに出走していた芸能人が心停止状態に陥り「AED」を用いた救急処置によって助かった出来事も記憶に新しい。
そのような心停止患者2,000人以上を調査した研究内容が公にされて話題を呼んでいる。この研究によって、身体が機能を停止した後にも暫く我々の意識は続いていることが濃厚になったというから驚きだ。
■死後数分間はものを見て聞いている!?
いったん肉体の機能が停止した後、奇跡的に息を吹き返した人間がその間に体験するという「臨死体験」は、これまでも多くの人々によって語られてきた。しかしながら体験者の話だけに依存する研究であるため、なかなか科学的な手法で切り込むことができなかったのも事実だ。
だが今回、英・サウサンプトン大学の科学者たちは、英国、米国、オーストリアの15の病院で、心停止に陥った患者の事例を4年間で2,060件収集し、この大量のデータを分析することにより臨死体験の解明に取り組んだのだ。
調査によれば、心停止から蘇生した人々の実に40%が、息を吹き返すまでの間にも“意識”のようなものがあったと話しているということだ。
「臨床的な死を迎えた後の最初の数分は意識が続いていることになります。その後、次第に意識が失われていくことになるのかどうかはわかりませんが、少なくとも死の直後にはまだ意識はあるのです」と、研究を主導した元サウサンプトン大学研究員で現在はニューヨーク州立大学に籍を置くサム・パーニア博士は語る。
臨死を経験した男性の1人は、死の直後に意識が肉体から完全に離れ、数分後に息を吹き返す自分の姿を部屋の片隅から見守っていたと語っている。また、サウサンプトン在住の57歳の心停止体験者は、3分間の“死”の間の看護士の動作や医療機器の音を今でも詳細に覚えているという。
「心停止後、20~30秒後に脳の機能も停止すると考えられていますが、この事例は心停止後にもかかわらず3分間は意識があったことを示しています。死後の世界を見たという体験はこれまで、死の直前や奇跡的な蘇生の直後に見る(天国や神などが現れる)幻覚や妄想であり、現実の出来事とは関係ないと思われてきましたが、これらの患者のケースでは、死後に周囲の現実の光景を見ているのです。これは驚くべき証言ですよ」とパーニア博士は話す。
また、インタビューに応じた心停止からの“生還者”、330人のうちの140人は、自分がいつ生き返るのかある程度予測できたと話しているということだ。
■死から戻ってくることができる!?
この研究は、イギリスの病院で行なわれた18カ月に及ぶ試験調査の成功を受けて、ヨーロッパや北アメリカにも調査を拡大して2008年にスタートした。心停止に陥った患者に病院で鎮静剤などの薬を投与しなければ、臨死状態の際に何らかの体験をする者の数はもっと増えているだろうと、パーニア博士は考えている。
「深刻な病気や事故によって、心肺と脳の機能が停止して訪れる“死”は、決して後戻りできない地点ではなく、もしかしたらまだ『戻ってくることができる』状況なのかもしれません。戻ろうとする試みが成功すれば生き返り、失敗すれば正真正銘の死がやってくると言えるのかもしれません」とパーニア博士は仮説を立てている。
比較的大規模な今回の研究をもってしても「臨死体験」の全容を解きほぐすことはまだできないが、肉体的な死後も暫くは意識が続いているという説に、大きな統計的裏づけが加わったことは事実だ。今後のさらなる研究に期待したい。
2014/10/15